町づくりの本質とは?寄り添うことで形成されるコミュニティ R.projoect 代表・丹埜 倫インタビュー【前編】日本橋エリアを盛り上げる強者たちの挑戦(3)
株式会社R.projectは「日本に眠るポテンシャルを発揮する」をビジョンに掲げ、合宿事業とバジェットトラベル事業を展開している会社。2つの事業を軸に、日本各地で見落とされている魅力を再発見し、地域と共に新しい人の流れをつくることを目指しています。
今回は代表取締役 丹埜 倫(以下 丹埜)さんに、株式会社R.projectが行っている取り組みや、これからの日本橋についての対談をご紹介します。(インタビュアー:YADOKARI 熊谷賢輔)
代表取締役 丹埜 倫(たんの ろん)プロフィール
1977年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、ドイツ証券東京支店、リーマンブラザーズ証券東京支店に勤務。日本株トレーダーとして勤務する傍ら、スカッシュの日本代表として世界選手権に出場。2006年に金融業界を離れ、株式会社R.projectを設立。自身が中学校時代に通った千葉県鋸南町(きょなんまち)の保田臨海学校を千代田区から譲り受け、リノベーションの末に「サンセットブリーズ」という人気合宿施設として再生。その千葉県や山梨県で事業を拡大し、6つの市町村で合宿事業を展開。2015年からは訪日観光客向けのバジェットトラベル事業も開始。歴史ある問屋街、日本橋横山町の旧問屋ビルをリノベーションしホステルとして運営しています。今後は、自身が高校を中退した経験を元に、既存のカリキュラムにとらわれないインターナショナルスクール事業を構想中。

町づくりの本質とは?
熊谷 本日は宜しくお願いいたします。さっそくですが、1年ほど前にIRORI(ゲストハウス)を日本橋(横山町)にオープンされています。日本橋を選んだ経緯を教えてください。
丹埜 僕らは、前から合宿ビジネスを千葉県や山梨県で行っています。そんな地方と都心を結ぶ場所として、日本橋は最適な場所でした。日本橋エリアには、今でも町工場や問屋街があるので、訪れた人々は歴史を肌で感じることが出来ます。大きな会社が、大手町や八重洲へ移転したことで、穴場の物件が空いていますし、賃料もそこまで高くはない。
都心にいながら、昔ながらの情緒や歴史を感じることができる場所は多くはありません。そういった意味では、日本橋はとても貴重なエリアです。日本橋という地名もオシャレで、外国人に注目されやすい点も、このエリアを選んだ理由でもあります。

熊谷 外国人にも注目されやすい、ですか。国内外に通用する町/町づくりは、どうあるべきと思われますか。
丹埜 海外の人から見て、秋葉原や浅草というのは有名なだけであり、それだけで人が集まってきます。僕が目指しているのは、ニューヨークのブルックリンやソーホーのエリアのような町づくり。昔の名残がありながら、面白い事業者が集まり、それぞれブランディングをしていく。これこそが、町づくりの本質だと思っています。
色んな媒体が情報を発信していますが、地域情報を発信するだけでは、正直物足りないですね。東京R不動産さんが、物件毎にストーリー性をもたせて紹介していたように、日本橋でも人との繋がりを作って紹介し、不動産仲介などをできたら面白いと思います。むしろ、ぜひともやりたい。
お店や物件の情報のみを伝えるのではなく、面白いビジネスをしているストーリー性が伝われば、周りのマンションの方たちにとっても魅力的になります。テナント誘致をメディアでやれば、感度が高い人や面白い人々が集まり、空きスペースが埋まり、日本橋の価値が向上すると思っています。
町に寄り添って行くのは僕らのほうから
熊谷 感度が高い人たちが集まれば、新しいものも生まれやすくなりますね。丹埜社長はどのようなコンテンツで人を呼び込もうと思われていますか?
丹埜 店舗以外のコンテンツとなると、教育がひとつの柱になります。日本橋エリアには”日本橋パパの会”という組織があり、主に日本橋エリアに住んでいるか勤めている人たちで構成されています。日本橋エリアを盛り上げようとしている人たちの集まりで、子どもたちと一緒にスポーツを楽しんだり、部会などでパパ同士の繋がりを作ったりして活動しています。
英語やプログラミングの教育にも熱心で、感度の高いパパたちが大勢います。例えば、子供たちが、当社スタッフやお客様と生の英語を勉強した後に、各国の料理を作ったり文化を体験できるような教室をやる事も検討しています。僕たちも一緒になってライフスタイルを表現することで、この地域で生活する人々との繋がりが増え、より魅力が増すと思っています。
連綿と続く日本橋の歴史を振り返ることが重要
熊谷 子どもたちの教育が町づくりの鍵を握っているんですね。他に方法はありますか?
丹埜 もう一つ重要なことは、日本橋の歴史を鑑みて、昔からいる問屋さんと、新しく入って来る人たちとの関わり方を考えることです。これから日本橋が開発されていき、町が変化するのはやむを得ないこと。しかし、無秩序な土地開発が進むと、昔ながらの風景は残りません。僕が危惧しているのは、日本橋の良さをどう残すかということ。ここの部分を解決する策が2つあります。
1つ目は、「日本橋に住んでいる人々のお手伝いをすること」。例えば繊維問屋さんの場合を考えてみます。商品企画~生産~物流~販売までを一貫して行うSPAモデルが主流となっている昨今のアパレル業界。繊維問屋さんにとって、市場は小さくなっていく一方です。
そこで、私たちが地方に持っている強みを生かし、都心と地方を繋ぐお手伝いをします。また、日本だけの市場で考えるのではなく、海外への発信をしていく。高齢化している問屋さんに、iPadやアプリを利用したIT戦略を提案するなど、私たちが当たり前にやっていることを活用し、ビジネスチャンスを広げるお手伝いをしていきます。
2つ目は、「日本橋の人々を巻き込んだコミュニティの形成」です。問屋さんが減っていくことで、空いている物件が増えるのであれば、そこを利用して地域の人たちと外部の面白い人たちが一緒になって、同じ価値観を共有する場所を用意すると面白いと思います。そのような場が用意され、コミュニティで物件オーナーと外部の人たちの間に信頼関係が築ければ、地域にまったく興味のない不動産屋や投資家が物件を取得するのではなく、この地域の未来に興味があるテナントが、リアルな繋がりの中でこの地域に進出すると思っています。
このような情報をメディアで発信すれば、その不動産のセカンドキャリアも補えると思っています。
熊谷 場所(コミュニティスペース)を持っているというのは、強みになりますね!
丹埜 もともと我々がやっている事業は、未活用もしくは低稼働となっている公的不動産を、リノベーションし、新しい価値を加えて運営をしていくことです。あまり注目されていない地域の不動産でも、人と違う視点を持ち、事業の可能性を探るというアプローチを取っています。
そのような事業をもともと行っていたので、不動産にはとても興味があります。我々は宅建(宅地建物取引業者)の資格を持っていないですが、地元地域への強い興味を持ち、そして長期的に地元に根ざした事業を行うことで、今後情報も多く持つ事になると思います。
2020年を見据えたインバウンド需要が鍵になる?
これまでの経験と実績が繋がっていき、不動産事業に対しても興味を持たれている丹埜社長。
後編は、これから拡大する可能性があるインバウンド需要に対するお考えや、日本橋に新たにオープンする寝台列車北斗星を蘇らせる新施設のご紹介をしていきます。(→後編に続く)
株式会社R.project(アールプロジェクト)
「IRORI Nihonbashi Hostel and Kitchen」
日本橋 新施設「Train Hostel 北斗星」
〒103-0002 東京都中央区日本橋馬喰町 1-10-12